うつ病とモラルハラスメント 不思議な女性2
9 月 13

以前親しかった女性にやたらとお酒が強い子がいました。
 
夜の高級店で働いていましたが、テキーラや日本酒を尋常ではない量、飲みます。
 
だいたいの目安は、同伴で日本酒3合またはワイン2本、仕事中にテキーラ1本、アフターでテキーラ1本。
 
全てを見続けたことはありませんが、周囲の話と観察していた時間から合致するものです。
 
世の中にはこんな人もいるのか・・・その量に驚いたものの、いくら飲んでも取り乱すことはない彼女を見てそう思っていました。
 
若干20歳前半だったと思います。
 
どちらかというと、下ネタに自分から持っていくヨゴレ系、悪友系、とでもいうのでしょうか。
小悪魔通り越して、盛り上げては相手に飲ませて自分も飲む、といった体を張りつつも営業成績のずば抜けた子でした。
 
昼間に会って気づいたことは、二重人格かと思うくらい夜に比較して寡黙であり、非常に知的好奇心が旺盛なことでした。
 
なんだか小難しい歴史やら哲学の文献を家に並べ、精神論を多く語っていました。
 
小さい頃からADHD注意欠陥多動性障害)で、そういった書物を読み、精神世界を考えていると落ち着くのだと言っていました。
 
ADHDという言葉を初めて聞いたときでもあり、よくわかりませんでしが、自分なりに調べてみて、大きくなった彼女の今じゃそんなことないんだろうと軽く思っていました。
 
しかし、もう一つ、驚いた彼女の特徴もありました。
 
家に全く鍵をかけない。さらには、家の鍵を持っていないことです。
 
「別に取られるものないし、鍵を失くさないように気かけるの面倒くさいし、いいのよ。」
そう彼女は言っていました。
私は、若くして高級クラブでダントツ営業を挙げている強さが成し得るものなのか、そんな風にこれもアバウトな理解に留めるに過ぎませんでした。
 
「だめだよそんなんじゃ、ちゃんと鍵くらいつけないと、物だけじゃなく大事なものを失うよ」
そんな風に抽象的に諭したことが一度ありましたが、
 
彼女は用意された答えのように
「大丈夫!もうたくさん失ってるから」
と、にこやかに答えてきたことを今でも覚えています。
正確に言えば、その笑顔への違和感を今でも覚えているという感じです。
 
彼女は別離した両親の間を行き来しながら、田舎や地方都市を転々としてきました。
兄弟に自閉症の子を抱え、母は心理学研究をやっているという家庭だったと思います。
そんな環境だから精神世界とかに詳しいのかなぁ、これも漠然とした理解を生み出していました。
 
いろいろ話していくうちに、彼女が大酒を飲むのは、基本的には「酒を飲まないとやってられない」という陳腐な感情から来ているものだと知りました。
アルコールを入れるとみるみると細かいことを気にせず、自分の好きな自分でいられるそうです。
だから仕事場は天国のようで、客は皆私より弱いから、嫌な客だったら飲ませれば自分も飲めて売上あがるし、それで客は喜んだりするし、一挙両得だと言っていました。
 
見上げた根性というか合理的な言い分にしっくりきましたが、それではアルコール依存症ではないか、という疑問が湧きました。
継続的な生活や人間関係を保てるのだろうか・・・でも、彼女にはアルコールは悪い風に作用してなそうだけど・・・体はまだ若いから大丈夫なのか・・・などと思いました。
 
そんな彼女という不思議な人格をわかってしまうまでに、それほど時間はかかりませんでした。
 
アルコールが入っている状態と、アルコールが完全に抜けている状態の人格が、違うどころか、記憶が繋がっていないのでした。
アルコールが入っていない状態というのは、当時全くに近くなかったようですが、その状態に直面し、認識せざるを得なかったのです。
数時間前にした大事な約束、行動を全く覚えていないことでした。
 
そして、その様子に気づかれたことを彼女は深く傷ついたようでもありました。
「だから言ったのに・・・大切なものたくさん失っているって」
彼女はそう言いました。
 
「いつも飲みの席で冗談のように言ってるけどね、私、朝起きたら誰この人ってことも何回もあるのよ」
こうも言いました。
 
彼女の体がどうこうというよりは、そのときの彼女の驚く姿、時には彼女の怒る姿が、相手を傷つけてきたのが苦しいようです。
 
カウンセラーに相談に行き、アルコールをやめ、別の仕事、別の環境を考えるところまではその後いきました。
人生変わって見えてきた、そんな風に感謝の言葉が出たときもありました。
 
先生には、この状態でアルコールを飲んでしまったら大変なことになるかもよ、今でも少し統合失調症系の記憶障害があるようだから、油断するんじゃないよ、と言われていた矢先でした。
 
彼女には実は大切な人がいた、と聞かされます。
アルコールを飲んでしまい、かなり前の記憶だけど急に思い出した、と言っていました。
漫画みたいな話ですが、思い出したあとの彼女の様子は、筆舌に尽くしがたい悲しく苦しい表情をしていました。
 
まず、その相手は家とか電話とかは知らないのか疑問に思いました。
・・・他の人だか客だかと勘違いしていたようです。
信じられない話でした。
嘘だろうと何度も疑ってかかりました。
でも、それ以上に彼女の顔付きが鬼気迫るもので納得させられました。
彼女は、自分の居場所はどこなのかわからず長時間苦しんでいましたが、最後は迷わず、大事なものの一つを捨てていきました。
 
これで終わりなのですが、
その後、彼女を知っているという人から、偶然に彼女の別の姿を聞いたことがありました。
今まで書いた話よりも前の時間軸になる話でした。
Lという紙でできたドラッグにはまっていたと聞かされました。酒は大して飲んでいなかったとも聞きました。
そのとき感じた「自分の記憶も塗り替えられるような感覚」は何か嫌なものでした。
 
私は表向きの心理学しか知りませんが、注意欠陥多動性障害に環境や人格の作用があると、アルコール依存症薬物依存症で、記憶障害などの人格障害まで引き起こすのだと理解しました。
 
彼女が垣間見ていた不幸や後悔は、何かへの依存でしか解決できなかったのだろう、そう思います。
彼女の不思議な言動に苦しんだ時期もありましたが、そういう意味でも責を押し付けるような心の整理はしませんでした。
 
そして記憶の障害という部分だけを切り取ってみれば、認知症なども現実的な問題であり、その恐怖感は、加齢と共に誰でも少しずつ感じるものでしょう。
いずれの話だとはいえ、自身の変化に気づいても、そんな時はその流れに抗うことなく素直に受け止めて、周囲のみならず自分自身に受け入れてもらうことが大切な気がします。

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written by M.Asakura \\ tags: , , , , , , , , ,

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